感じたこと・思ったことをそっと、伊織視点でお届けします。
藍晶石という名の少年
毎日ぼくを見つめてる
時々片目でウィンクを
きらきらぼくにくれている
藍晶石という名の少年
毎日そこでお昼寝さ
だれがおいでと呼んだって
知らんふりしてチッチのプー!
アンタにゃついてゆくものか
藍晶石という名の少年
毎日身なり整えて
道行く人には愛想良く
可愛い笑顔でお出迎え
藍晶石という名の少年
毎日海を眺めては
蒼い目からは涙かな
ためいきついてチッチのプー!
涙は海になりません
藍晶石という名の少年
毎日ツンとすましてる
だんだんぼくへのウィンクも
きらきら散ってしまったね
藍晶石という名の少年
ある日の海が荒れた日に
店主のおじさんやって来て
連れていかれてチッチのプー!
そこには何も残りません
藍晶石という名の少年
いなくなっておしまいさ
ipodのイヤフォンを、一目惚れのヘッドフォンに変えた。
お気に入りのメーカー製のそれが歌うのは、やっぱりお気に入りの曲。
耳をさらっていくのは、アンプラグドで繊細なメロディーと細い歌声。
それを携えた私の体は、
「新鮮」な気持ちすら飛び越えて、寧ろ「神聖」な心持ちで電車を待っている。
月並みな日常を変化させるのは、案外造作も無いことだと思う。
好きなものを持ち込むだけで、世界は一枚フィルターを通した様に色を変える。
決められた時間に決められた場所へと急ぐこの瞬間には、
そのたったひとつの「好きなもの」だけが正義なのだ。
ぼうっとそんなことを考えながら居ると、
神妙な顔で佇むわたしの元へ、大げさな音を立てて迎えがやって来た。
あまり多くない人たちと共に足を踏み入れた電車は、
午後特有の気だるい雰囲気がたちこめていて。
乗客は皆、読めない表情をしている。
なにをしに行くのだろうか?
― たぶん、終点の1つ手前の駅で待つ、恋人に会いに?
うたた寝をして、乗り過ごさないのだろうか?
― 乗り過ごしたら戻ればいい。時間はいくらでもあるんだろう。
彼らの目的を体の中で自問自答しながらも、
ギターの、その泣く様に美しいメロディーに気持ちを奪われていく。
こんな昼下がりの電車には、泣き出したくなるほど青い空がよく似合う。
窓外の人工の白い壁たちは、光を受けてきらきらと、おしゃべりをしているかのようだ。
…座席に腰掛けたままのわたしは、眺めるだけで混ざれないけれど。
そんな自分が少しだけもどかしくなって、
膝上の鞄の柄を迷路に見立てて目で追いかけた。
ふと、視界に陽が射す。
さらにその視界の端には、異国のバザールが見える。
いや、でも違う。
振り返り見れば、そう見えたのは反対側のホームの人々で、無機質な顔で電車を待っている。
彼らもわたしと同じ、座席に腰掛けたまま動けない人たちなのだろう。
やさしく動き始めた窓越しに見る景色は、何のにおいもしない。
開いたドアから差し込む風はこんなにも気持ちいいのに、何処へも飛び出せないのは罪だ。
それなら、「歌おう、歌おう」と呼びかけるメロディーをつれて、足を踏み出してみればいい。
それは、この優雅な季節にのみ得られる幸福感。
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